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『君の名は。』
2016年10月3日(月)


 長篇アニメを映画館へ見に行ったのは宮崎駿の『風立ちぬ』(2013年)以来3年ぶり。
 あの作品は監督・脚本・原作の1人3役を務めた宮崎駿の引退作≠ニして注目を集め、興行収入が100億円を突破する大ヒットとなった。

 それから3年後に製作されたこの『君の名は。』は、宮崎以後のアニメ界で注目されている新海誠が監督・脚本・原作・編集・絵コンテの1人5役を兼務。
 8月26日に劇場公開されてから口コミで人気が広がり、9月22日までに興収100億円を突破した。

 ちなみに、興収100億円突破は『風立ちぬ』以来3年ぶりで、宮崎のスタジオジブリ作品以外では初の快挙≠セという。
 ただ、ぼく自身は『風立ちぬ』がいまひとつピンとこなかったため、このNHKの名作ラジオドラマからタイトルをいただいた『君の名は。』にもあまり期待はしていなかった。

 開巻、夜空を覆う美しい流星群がスクリーンいっぱいに広がり、地球めがけて真っ赤に燃えた隕石の欠片が落下してゆく。
 大変素晴らしいオープニングで、一気に作品世界へと引き込まれたが、このシーンが何を意味しているのか、物語の半ばまでわからない。

 主人公は東京の新宿でこの流星群を見上げていた高校生の少年・立花瀧(声の出演:神木隆之介)、飛騨の山奥にある糸守町に住む女子高生・宮水三葉(同:上白石萌音)。
 流星群がもたらした超常現象なのか、このふたりの間で突然男女入れ替わり≠ェ起こり、瀧になった三葉、三葉になった瀧が繰り広げるドタバタが序盤の見せ場になる。

 このアイデアは平安時代の小説『とりかへばや物語』(作者不詳)に基づいているそうで、ぼくらの世代には大林宣彦の『転校生』(1982年、リメイク版:2007年)を彷彿とさせる。
 本作では主人公の2人が友だち同士ではなくまったくの他人で、入れ替わり≠フ起こる状態もずっと続かず、週に何度か、前触れもなく起こるという設定になっているところが面白い。

 お互い遠く離れたところに住んでいて、意思の疎通ができない瀧と三葉は、スマホのアプリ〈日記帳〉を利用し、入れ替わり≠ェ起こっている間の出来事を報告し合うようになる。
 まさかこんなストーリーだとは夢にも思わず、じっくり画面を見つめていると、瀧のスマホが明らかにiPhone6か6sがモデル(アップルのマークは架空のものに変えられている)であるのに対し、三葉のほうは5か5sだということがわかる。

 そこまで背景や小道具を丁寧に描き込んでいることに、アニメ音痴のぼくは感心させられたが、なぜこんなに細かい絵作りをやっているのか、このあたりまではまだわからなかった。
 やがて入れ替わり≠ェ途絶え、無性に三葉に会いたくなった瀧は、入れ替わり≠ェ起こっている間に見た町や山の風景を絵に描き、似たような景色を旅行雑誌や風景写真で探し出すと、友だちと一緒に飛騨の山奥へ向かう。

 そして、ようやく三葉の住む糸守町に辿り着くと、そこは3年前に廃墟になっていたのだった。
 目の前のスクリーンに変わり果てたかつての田舎町が広がるこのシーンは、『シン・ゴジラ』が現代の東京を破壊し尽くす場面と同じくらい、あるいは別の意味でそれ以上にもっと強烈、かつ圧巻である。

 ここに至って、そうか、開巻の流星群、iPhoneの機種の違いをはじめ、しっかり描き込まれた様々なディテールも、すべてはこの展開への布石であったのか、と見る者は思い至る。
 個人的には、ロッド・サーリングの『トワイライト・ゾーン』、ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』、筒井康隆の『時をかける少女』など、かつてSFのタイムトラベルものに読み耽っていた少年時代の記憶を引っ張り出されて、心揺さぶられる思いがした。
 
 いったい糸守町に何が起こったのか、瀧と三葉は本人同士≠ニして会うことができるのか。
 絵の力、ストーリーの力、さらに大変効果的に配されたRADWIMPSの歌曲の力が渾然一体となって、われわれは新海誠が用意した素敵なエンディングへと導かれる。

 ぼく自身は新海作品を見るのはこれが初めてで、これまでは勝手に作家性の強い映画人だろうと思い込んでいた。
 それもあながち間違いではないらしいけれど、本作をどのような映画にしたかったという問いに、彼はこう答えている。

「とにかく、この映画は楽しいですよ、と堂々と言えるものにしたかった。
 誰もが楽しめるようなエンターテインメントを作りたいという思いはずっと心の中にあった」

 教えられた。
 アニメや映画に限らず、お客さんから銭を取って見せる作品はこうでなくてはいけない。

 採点は85点です。

(2016年 東宝 107分)

丸の内ピカデリー、TOHOシネマズ新宿、渋谷HUMAXシネマなどでロードショー公開中

※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

 2016劇場公開映画鑑賞リスト
15『ハドソン川の奇跡』(2016年/米)80点
14『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年/米)70点
13『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年/米)85点
12『ニュースの真相』(2015年/豪、米)70点
11『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)75点
10『シン・ゴジラ』(2016年/東宝)90点
9『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年/米)90点
8『インデペンデンス・デイ リサージェンス』(2016年/米)70点
7『疑惑のチャンピオン』(2015年/英、仏)70点
6『ダーク・プレイス』(2015年/英、仏、米)70点
5『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)80点
4『マネーモンスター』(2016年/米)75点
3『FAKE』(2016年/東風)80点
2『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年/米)80点
1『白鯨との闘い』(2015年/米)80点