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『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』
2016年07月30日(土)
Trumbo


 赤狩りの嵐が吹き荒れた1950年代のアメリカ、非米活動委員会(HUAC)によってブラックリストに載せられた「ハリウッド・テン」のひとり、ダルトン・トランボの戦いと人生を描いた作品。
 早く見に行かないと終わってしまうと思い、きょうの巨人戦取材をサボってTOHOシネマズシャンテへ駆けつけたら、昨夜ネットでチケットを確保しておいた午後1時35分の回は完売、場内は満席だった。

 主人公のトランボは、オードリー・ヘプバーン、グレゴリー・ペック主演の『ローマの休日』(1953年)の脚本を匿名で執筆、アカデミー賞を獲得した伝説的脚本家(オスカーは名前を貸したイアン・マクラレン・ハンターが受賞)、というイメージが日本では一般的である。
 また、自分の原作小説を自ら脚本化、監督した古典的名作『ジョニーは戦場へ行った』(1971年)で、反戦平和主義者としての評価も高い。

 しかし、トランボが1950年に投獄されてからの10年間、これほど迫害され、屈辱を味わい、家庭や生計の危機に瀕していたとは、不勉強にしてほとんど知らなかった。
 しかも、トランボが追い詰められてゆく過程で、往年の名優やプロデューサーが次から次へと実名で登場、映画のイメージとはかけ離れた姿を見せるくだりが非常に衝撃的である。
 
 例えば、HUACの手先となってトランボをハリウッドから追放しようとするジョン・ウェイン。
 この西部劇のスターがハリウッドきってのタカ派だったことは知っていたが、トランボとの口論の最中、実際は徴兵を忌避しており、従軍経験がないことを暴露されて言葉に詰まった場面にはこちらも驚かされた。

 もうひとり、最初のうちはトランボの友人でいながら、ハリウッドで干され、ワシントンでの公聴会でトランボを共産主義者だと証言するエドワード・G・ロビンソン。
 かつては自慢の絵画コレクションを売ってまでトランボの裁判費用を用立てていたこの名優が、トランボに向かって「1年間、何の役ももらえなかったんだ。きみは名前を隠して書けるからまだいい。ぼくはこれが自分の職業なんだよ("This is my work")」と自分の顔を指差すシーンはあまりに痛切だ。

 一方、トランボと3年契約を結び、やはり最初のうちはトランボをかばっていたMGMのルイス・B・メイヤーは、当時ハリウッドで大変な影響力を誇っていたゴシップ・ライター、ヘッダー・ホッパーにこう脅迫される。
 「トランボを解雇しないと、あなたの本名と、あなたがユダヤ人であることを新聞に書いてやるわよ!」

 こうした人間たちによって言われのない誹謗中傷を受け、法廷侮辱罪で逮捕、収監されたトランボは、1年の刑期を終えて出所してからも、大手の映画会社にはまったく仕事をさせてもらえない。
 そこで、アクション、西部劇、SFなど、B級プログラムピクチャーを専門とするキング・ブラザースに自ら「私に偽名でシナリオを書かせてくれないか。ギャラはそちらの言い値で結構だ」と売り込む。

 本作が単なる偉人伝やよくある逆転ストーリーの展開に堕していないのはここからで、情熱家で正義漢だったトランボが、実は非常に現実的な策略家でもあった一面を発揮。
 自分と同じように仕事にあぶれたシナリオライターをかき集め、ゴリラが暴れ回ったり、宇宙人が農場の娘と恋に落ちたりするくだらない映画の脚本を書かせ、社長のフランク・キングに「つまらん」と突っ返されると、「それならがおれが直してやる」とタイプライターに向かう。

 トランボは家族も仕事に協力させ、妻のリオンや子供たちに電話の応対や出来上がったシナリオの配達をさせる。
 家族の小言や生活上の雑音をシャットアウトするため、バスルームにタイプライターを持ち込み、ウイスキーやアンフェタミンをあおっては執筆を続けた。

 トランボが孤軍奮闘を続けている間、娘は学校で父親の職業を尋ねられても答えられず、息子はガールフレンドとのデートをキャンセルして父親の仕事を手伝う日々。
 いつしか家庭は崩壊へ向かっていき、トランボは夫として、父として、改めて妻や娘と対峙しなければならなくなる。

 社会でも家庭でも様々な苦難を乗り越え、政治的圧力を跳ね返し、トランボが『スパルタカス』(1960年)で自分の名前がクレジットされるのを見る場面では、思わず涙が滲んだ。
 ものを書くとはどういうことか、自分の作品を世に問う人間に求められる覚悟とは何か、そういうことを改めて考えさせられた半面、やはりライター稼業はやめられないよな、と思わせてくれた作品でもある。

 アカデミー主演男優賞にノミネートされたトランボ役のブライアン・クランストンをはじめ、妻クレオ役のダイアン・レイン、娘ニコラ役のエル・ファニング、脚本家仲間アーレン・ハード役のルイスC・Kはそろって好演。
 トランボにとって一番の仇敵となるホッパー役のヘレン・ミレンは圧倒的な存在感を見せており、E・G・ロビンソン役のマイケル・スタールバーグ、元ギャングだったというフランク・キング役のジョン・グッドマンもいい味を出していた。

 監督は『オースティン・パワーズ』(1997年)、『オースティン・パワーズ デラックス』(1999年)、『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』というおバカ映画でブレークしたジョン・ローチで、今回は大変重厚かつエキサイティングな人間ドラマの構築に成功している。
 イアン・マクラレン・ハンターの元で創作を学び、トランボの娘たちにも直接取材したというジョン・マクナマラのシナリオも極めて秀逸。
 
 採点は90点です。

(2015年 アメリカ 124分)

TOHOシネマズシャンテなどで公開中

※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

 2016劇場公開映画鑑賞リスト
8『インデペンデンス・デイ リサージェンス』(2016年/米)70点
7『疑惑のチャンピオン』(2015年/英、仏)70点
6『ダーク・プレイス』(2015年/英、仏、米)70点
5『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)80点
4『マネーモンスター』(2016年/米)75点
3『FAKE』(2016年/東風)80点
2『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年/米)80点
1『白鯨との闘い』(2015年/米)80点
Number965
平成日本シリーズ
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