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『疑惑のチャンピオン』
2016年07月2日(土)
The Program


 ランス・アームストロングのドーピング・スキャンダルを映画化した本作がやっと日本でも公開された。
 YouTubeで米本国版の予告篇を目にしたときからずっと気になっていたので、初日のきょう、さっそく丸の内ピカデリーに見に行ってきた。

 開巻、ツール・ド・フランスの山岳ステージを疾走する自転車が映し出され、これをピカデリーの大きなスクリーンで見たときはかなりの迫力を感じた。
 ツールの場面はこの新たに撮影した場面に加え、テレビ放送されたドキュメント映像をつないで構成しており、これだけでも結構見応えがある。

 俳優はアームストロングを演じるベン・フォスターをはじめ、ヨハン・ブリュイネールのドゥニ・メノージェ、フロイド・ランディスのジェシー・プレモンス、ミケーレ・フェラーリのギヨーム・カネなど、どれも実在の人物にそっくりで、似せ方のあざとさに苦笑したくなったほど。
 とりわけフォスターは精巣がんにかかる前のアームストロングに風貌がそっくりで、ツール7連覇の最中の研ぎ澄まされた肉体に近づけることはさすがに難しかったようだが、約15sの減量を敢行した役作りは評価していい。

 そのツールで勝ち続けている最中、アームストロングとUSポスタル(のちにディスカバリー、アスタナ)の選手たちはいかにしてドーピングの抜き打ち検査を免れていたのか。
 WADA(世界アンチ・ドーピング機構)、USADA(全米アンチ・ドーピング機構)から検査官がやったくるたび、シャワーを浴びているからなどと言い訳をして時間を稼ぎ、その間に大急ぎでマスキング用の薬物を点滴注射したり、ドーピングしていないフレッシュな状態の自分の血液を自己輸血したりと、様々なセコい手口が詳細に描かれている。
 
 ぼくは自分が趣味として自転車を始めた2002年からアームストロングに興味を持ち、史上最多となる5連覇を達成したツールはオンタイムでテレビ観戦。
 自叙伝『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』(2000年、邦訳:講談社)、『毎秒が生きるチャンス!』(2004年、邦訳:学研)を読み、感動した覚えもある。

 だから、ドーピング問題が表面化し、アームストロングの実像が露わになったときにはショックを受けた。
 一連の経緯と内幕が詳細に綴られた元アームストロングのアシスト選手タイラー・ハミルトンと作家ダニエル・コイルの共著『シークレット・レース/ツール・ド・フランスの知られざる内幕』(2012年、小学館)、ニューヨーク・タイムズの記者ジュリエット・マカーの『偽りのサイクル/堕ちた英雄ランス・アームストロング』(2014年、洋泉社)は貪るように読んだものだ。

 この映画版のベースとなっているのは、最初にアームストロングのドーピング疑惑を暴いたイギリスのサンデー・タイムズの記者デイヴィッド・ウォルシュの"Seven Deadly Sins: My Pursuit of Lance Armstrong"(邦訳なし、マカー著『偽りのサイクル』にはウォルシュの取材活動とアームストロングとの係争についても詳しく書かれている)。
 本作にはウォルシュ自身(クリス・オダウド)も登場し、アームストロングがいかにして彼に圧力をかけたか、おかげでアームストロングの取材拒否を恐れた同業者たちがどんなふうにウォルシュを爪弾きにしていたか、といったスポーツ・ジャーナリズムの暗部もきちんと描写している。

 しかし、なぜアームストロングはあれほど高度なドーピング・システムを作り上げてまでツールでの勝利に固執したのか、ウォルシュはどうして執拗にアームストロングを追い詰めようとしたのか、本作は彼らの人間像の内面にまで踏み込んではいない。
 監督のスティーヴン・フリアーズはベテランの職人監督で、それほど作家性の強いタイプではなく、アームストロングのドーピング問題をあくまでもエンターテインメントとしてまとめることに徹している。
 
 そのため、最初のうちは面白いものの、後半はすでによく知られている事実経過を追うだけに終始しており、ドキュメンタリーのダイジェスト版を見せられているかのような食い足りなさが残った。
 本作を見てアームストロングのドーピング問題に興味を覚えた方は、ぜひ前記『シークレット・レース』や『偽りのサイクル』を読むことをお勧めしたい。
 
 採点は70点です。

(2015年 イギリス、フランス/日本配給ロングライド 103分)

 丸の内ピカデリー、渋谷シネパレスなどで公開中

 ※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

 2016劇場公開映画鑑賞リスト
6『ダーク・プレイス』(2015年/英、仏、米)70点
5『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)80点
4『マネーモンスター』(2016年/米)75点
3『FAKE』(2016年/東風)80点
2『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年/米)80点
1『白鯨との闘い』(2015年/米)80点
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