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ノーベル賞効果
2002年11月1日(金)
○2002年11月号掲載

 島津製作所主任の田中耕一さんが43歳の若さでノーベル化学賞を受賞したニュースは、大きな驚きとともに受け止められた。普通は受賞対象者として何年も前から候補に上り、関係者によく知られているものだが、田中さんはそうではなかった。

 発表があったとき背広姿ではなく、作業着だったのも突然の出来事だったことを物語った。拉致関係の重苦しいニュースが続く中、久々にほっとさせる話題だった。

 ノーベル賞受賞者にありがちな尊大さを全く感じさせない人柄に好感が持てた。「上京のとき新幹線ののぞみに乗れるのが嬉しい」という発言もよかった。

 思うに、彼の受賞による日本全国への波及効果は極めて大きいのではないか。「人間何が一番幸せなのか」という究極的命題に対する一つの答えを、出してくれたような気がする。

 末は博士か大臣か。こんな表現を子供のころから見聞してきた。出世という呪縛に取りつかれなかった人はあまりいないだろう。

 のんびりした九州の田舎に育った私でも、高校に入るときにはいちおう受験を経験した。競争に勝ってなんぼ、という考え方は間違ってはいないし、その欲望が経済繁栄につながることも否定しない。

 だが、世間には「競争するより、好きなことに没頭して人生をまっとうしたい。評価は低くても構わない」という人も少なからずいる。形見が狭いので、大きな声を上げていないだけだ。そんなタイプにとって、田中さんの受賞は朗報だった。

「出世して管理職になると好きな研究ができなくなる」

 そういう発言をする人で、昇進も遅いほうだった。上昇志向の強い人なら「何を言ってるんだ」と変人扱いしかねない生き方だろう。

 経歴を見れば、東北大出のエリートであることは間違いない。しかし、上を見ながら仕事はしていない。恵まれた環境にあるからできるんだという見方もあろうが、創造の喜びは出世競争に懸命な人には終生無縁ではないかと思う。